2021年9月8日更新

【考察】ジブリ『On Your Mark』が興味深い2つの理由 ナウシカの前日譚疑惑の短編アニメを解説

On Your Mark

『On Your Mark』はショートアニメでありながら考察をすると、ある別の作品との関係性が見えてくるのを知っていますか?この記事では『On Your Mark』のあらすじや考察について解説していきます。

ジブリアニメ『On Your Mark』とは?2つの視点から徹底考察

ジブリのショートアニメ『On Your Mark』を知っていますか?この作品はCHAGE&ASKAのPVとして、宮崎駿によって制作されました。1995年に公開された本作は、上映時間わずか6分48秒という短さです。 しかし短編アニメながら暗号のような描写が多く、セリフがないことからも、さまざまな考察がされています。一見ジブリの明るい雰囲気をまとっているように見えるのですが、考えれば考えるほど、いろいろな解釈が可能な作品です。 この記事では、『On Your Mark』のあらすじや考察について解説しています。『On Your Mark』を1度見たけど、もっと詳しく知りたいという人はぜひ最後までチェックしてください。

【監督インタビュー】『On Your Mark』は曲解して作った

描いたのは“世紀末の話”

『On Your Mark』

自身のエッセイ、インタビューを再構成した『出発点 1979〜1996』中で『On Your Mark』について宮崎駿はこう語っています。 「「位置について」という意味のタイトルだけれど、その内容をわざと曲解して作っています。」 いったい監督はどのように曲解したのか? 監督はインタビューにて物語の舞台を「世紀末の後の話」と設定し、そこは「放射能があふれ、病気が蔓延した」世界だと話しています。つまりCHAGE&ASKAのような当時人気のJ -POPアーティストが歌うようなテーマとしてPVを制作せず、あえて「悪意に満ちた」=現代の情勢を風刺したアニメを作ったのではないでしょうか。

崩壊した世界で歌われる隠語としての曲

On Your Mark

さらに宮崎駿は『On Your Mark』で描かれる世紀末を、アナーキー(無政府主義的)になる一方、保守体制が支配的になり、最終的には「なにもなくなり」、「のたれ死にが始まる」世界であると自身で仮定しています。 そんな崩壊した世界で『On Your Mark』という曲は「言いたいことを体制から隠すために、隠語にして表現した曲」という設定で監督は制作したそうです。 余談ですが監督は、世紀末の世界で社会の鬱憤や不満を紛らわす手段の1つとして「宗教」を挙げており、PV冒頭で登場する宗教施設「聖NOVA'S CHURCH」が監督の思想を反映していることがわかります。

【あらすじ/ネタバレ】『On Your Mark』のストーリー

武装警官が宗教集団施設に乗り込む

On Your Mark

近未来のある都市では、放射能が蔓延していました。そこでは地上で生活することができなくなっています。人々は地下都市での生活を余儀なくされていました。 そんな世界で新興宗教「聖NOVA'S CHURCH」が地下都市で勢力を伸ばしつつあります。武装した警察は施設へ乗り込み、容赦無く制圧しました。 すると内部で、CHAGE&ASKAをイメージした警官2人が監禁された翼の生えた少女を発見します。 しかし政府上層部の研究機関に彼女は奪われ、場所は変われど彼女はまた囚われの身になるのです。

【ループ1回目】少女の救出に失敗する

On Your Mark

警官2人は、勤務が終わり食事中でも翼が生えた少女のことが忘れられません。彼女を自由にしたいという思いが募り、彼らは少女を救出することを決意します。そこでシステムにハッキングするための機械や内部の地図を手に入れ潜入の準備を始めました。 そして彼らは防護服を来て少女の元へと向かいます。彼女を助け出すことに成功しジープに乗せ、研究機関から脱出を試みますが、施設外部に出た途端、追っ手のヘリにミサイルで追撃され3人は落下してしまうのです

【ループ2回目】少女の救出に成功する

On Your Mark

ところが場面は切り替わり、地下施設から出たところからループが始まります。今回は乗っているジープが飛行機に変化。そのおかげで、彼らは少女の追手から逃れることができました。 立ち入り禁止のような看板を無視し、太陽光が注ぐ草原をドライブする3人。そして少女は、空に飛び立っていきます。少女が空高く舞い上がって雲を抜けていくと、上空から小さく見えるジープは道を少し外れて停車しました。 こうして警官たちは少女の救出に成功したのです。

【考察①】なぜ物語はループするのか?宮崎駿の思想を紐解く

宮崎駿と“永遠回帰”思想

On Your Mark

このように本作は、場面がループするという不思議な構成になっています。なぜ、宮崎駿監督はこのような構成を採用したのでしょうか。その理由には、ニーチェの最晩年の思想「永遠回帰」が関係しているのではないかと言われています永遠回帰は、神の存在の否定から成り立っています。キリスト教では、人間は神の国を目指して過去から未来へと直線的に世界を捉えています。しかし「神は死んだ」と否定したニーチェにとって、この世に過去も未来もないのです。 そのため生は何の目標も持たず、創造と破壊を無限に繰り返すという円環状の世界としてニーチェは捉えました。 そしてこの思想は宮崎駿にも影響を与え、コミック版『ナウシカ』にも表れています。 物語の最終局面で、人工人間であるナウシカたちを作った先人類に対し、彼女は「私たちは血を吐きつつ くり返し くり返し その朝を超えて飛ぶ鳥だ!!」と言いました。この言葉にも、宮崎駿(=ニーチェ)の思想に表現されていると言えるでしょう

『On Your Mark』で2人が掴んだ未来

On Your Mark

本作では少女を救うため、「墜落死する人生」と「救出する人生」の2パターンしか描かれていませんでした。しかし、永遠回帰の思想を考慮すると、おそらく他にもさまざまな失敗や死を繰り返していたのかもしれません。 永遠回帰の思想には、さらに先があります。それは、「運命愛」というものです。運命愛とは終わりがなく繰り返される人生の先で、「これが生だったのか!」と受け入れる考えとされています。無意味な人生から逃げるのではなく、ありのままを受け入れるのです。 そこで本作のラストシーンに戻って考えてみましょう。 ジープに乗った彼らは、あらゆる失敗や死を経験したとします。すると2人はその苦悩(もしくは苦労)を享受し続けていくでしょう。そして苦悩や苦労を受け入れ、何度も最高の結果を求め続けます。 こうして最終的に、2人にとって至高の結末である「少女の救出を掴む」ということができたのではないでしょうか

【考察②】『On Your Mark』=ナウシカの前日譚説

有毒物質に汚染された世界観がリンク

On Your Mark

また、『On Your Mark』は『ナウシカ』の世界の前日譚になっているのではないか、と考える説も存在しています。あらすじでも紹介したように、『On Your Mark』の世界は放射能に汚染されていました。 そして『ナウシカ』の世界は、「火の7日間」と呼ばれる大戦争により滅亡してから約1,000年後の世界なのです。『ナウシカ』では「瘴気(しょうき)」と呼ばれる有毒ガスで充満した「腐海」が至るところにあり、今もなお広がり続けています。 またコミック版の『ナウシカ』では、ナウシカは人造人間であり、対毒性があるとされているのです。そう考えると、翼の生えた少女は有毒地域でも防護服やマスクなしで悠々と羽ばたいていいける、つまり対毒性があると考えられるでしょう。 このような点も、『On Your Mark』と『ナウシカ』はリンクしています。 以上2点の共通点から『On Your Mark』が『ナウシカ』の前日譚なのでは、という説がファンの間で考察されているのです。

翼の少女は映画「ナウシカ」OPの壁画に登場する?

ナウシカ

映画『ナウシカ』のオープニングには、翼の生えた少女が描かれた壁画が登場します。それは古ぼけたタッチで、古代エジプトなどで描かれてきた壁画のようにも見えます。 その壁画には、地下都市のような場所で倒れている人々と、天空を見上げている人々が描かれていました。そして人々は大きな白い翼を生やした女性に向かって、何かを願って見つめているようにも受け取れるのです。 ただしこの説はもしかするとあくまで予想にすぎないかもしれません。『On Your Mark』と『ナウシカ』の世界がリンクしているという噂が広まり、歪曲されて伝わった形とも考えられるでしょう。 『On Your Mark』の考察をする上で、『ナウシカ』が取り上げられるのは、このようなことがあるからでしょう。

ジブリのショートアニメ『On Your Mark』は映画並みの面白さ

On Your Mark

『On Your Mark』はショートアニメですが、長編映画並みの面白さがある作品です。セリフがないことからも、様々な考察がされていて、考えれば考えるほど作品の世界に浸ってしまいます。『On Your Mark』が気になった人は、ぜひチェックしてみてください。