『秒速5センチメートル』をネタバレ解説!なぜ?この結末は果たしてハッピーエンドなのか
アニメ映画『秒速5センチメートル』とは?
原題 | 『秒速5センチメートル』 |
---|---|
公開日 | 2007年3月03日 |
ジャンル | 恋愛 |
再生時間 | 63分 |
制作国 | 日本 |
言語 | 日本語 |
桜の花びらが舞い落ちる速度=秒速5センチメートルをタイトルに冠する本作は、新海誠が監督・原作・脚本・絵コンテ・演出を手掛けた作品。ある男女の距離感を、小学生から大人まで短編3部作で描いています。 新海監督自身が執筆した小説版や漫画版も出版。定期的に劇場での上演がされているのに加え、2025年10月には実写映画の公開も決定するなど、2007年の公開から長く愛されている作品です。
1話「桜花抄(おうかしょう)」
あらすじ
遠野貴樹(とおのたかき)と篠原明里(しのはらあかり)の出会いは、東京の小学校。転校生同士で似たような境遇のため、2人はすぐに仲良くなりました。 しかし小学校卒業と同時に、明里が栃木県に転校してしまいます。 明里からの手紙をきっかけに連絡を取り合っていた2人ですが、今度は貴樹が鹿児島県に引っ越すことに。 さらに遠く離れてしまう前に、貴樹は意を決して明里に会いに栃木へ向かいます。 ところが約束の当日は大雪になり、貴樹の乗る電車は大幅に遅れてしまい……。
ネタバレ
貴樹はそれでも諦めず、約束の駅を目指します。途中、彼女に渡すはずだった手紙も風に飛ばされてしまい、約束の駅に到着したのは深夜でした。 しかし明里は待ってくれていたのです。久々の再会を果たした2人は、雪が降る中、桜の木の下でキスをします。 そのまま2人は近くの納屋で雪をしのぎながら、たくさんのおしゃべりをして夜を明かすことに。実は明里も手紙を用意していましたが、それを貴樹にわたすことはありませんでした。 翌朝、明里は貴樹に「貴樹くんはこの先も大丈夫」とエールの言葉を贈ります。一方の貴樹は明里からどんどん遠ざかる電車の中で、「彼女を守れるだけの力が欲しい」と強く、ある種の呪いのように自らに言い聞かせるのでした。
2話「コスモナウト」
あらすじ
舞台は鹿児島県の種子島。貴樹の高校の同級生・澄田花苗(すみだはなえ)は、中学2年で貴樹が転校してきた時から彼に恋をしていましたが、なかなか想いを伝えることができません。 卒業後の進路も決まらず、趣味のサーフィンもスランプ。 そんな時、貴樹が東京の大学へ進学することを知り、ある決意を持って波に挑戦し、とうとう成功します。スランプを克服した花苗は、貴樹への告白を決心するのですが……。
ネタバレ
半年ぶりに波に乗れた花苗は、その帰り道でいつものように貴樹と寄り道をします。中学で出会ってから高校3年になるまでずっと彼を思っていた花苗。貴樹はおそらくその気持ちに勘づいたうえで、告白を無言で拒みます。 それに気づいた花苗は告白をやめ、それでもいつも通り優しく接してくる貴樹に対して、優しくしないでと呟くことしかできません。 その瞬間、2人の背後で深宇宙探査機「ELISH(エリシュ)」が打ち上がります。果てない宇宙への探索に向かうELISHに、貴樹は明里への思いや存在を重ねていたのでしょう。 花苗はロケットを見つめる貴樹の表情に、彼が自分を見ていないことを悟り、その恋心を胸にしまうのでした。
3話「秒速5センチメートル」
あらすじ
社会人になった貴樹は、何かにもがきながら東京の街で仕事に追われる日々を過ごしていました。3年間交際している恋人にも心が向かず、彼女からもそのことを指摘されてしまいます。 貴樹の心は完全にすり減り、懐かしい昔の夢を見ます。
ネタバレ
13歳の頃の夢を見る貴樹。貴樹はあの頃から変わらず、心の奥底で明里のことを追いかけ続けていたことを改めて自覚します。 一方、明里は結婚を控えていました。実家の荷物を整理した際に出てきた、あの日渡せなかった手紙を見て、彼女もまた13歳の頃の夢を見ました。 後日、ふと桜を見に行った貴樹は、思い出の踏切で明里らしき女性とすれ違います。山崎まさよしの「One more time, One more chance」が流れるなか、踏切をわたったあと振り返る貴樹。しかし視界は電車に遮られてしまいます。 電車が過ぎ去るとそこには誰もいませんでした。貴樹は柔らかな笑顔を浮かべ、踏切に背を向けて歩き出すところで映画は終わります。
【考察】なぜ?結末を振り返る

ラストシーンで、踏み切りが上がるのを待った貴樹と、待たずに行ってしまった明里の対比が印象的でした。 13歳の雪の日の別れ際、明里はこの別れが2人の恋の終わりだと感じ取っていたはず。「貴樹くんなら大丈夫」というエールには、「私がいなくても」という意味が含まれていたと考えられるからです。しかし貴樹はその後も彼女の生きる指針としてきました。 3篇をかけて描かれたのは貴樹の初恋の終わりです。彼が一歩前へと進むためには、踏み切りを待たずに行ってしまう明里を貴樹が目の当たりにする、あの結末が必要だったのでしょう。 雪の日に待ってくれた明里はもういない。秒速5センチメートルの恋がようやく過去のものになったのです。
【考察】ハッピーエンドと捉える解釈は?
貴樹と明里のラブストーリーとして本作を観ると、本作はバッドエンドかもしれません。一方で、貴樹は小学生時代に彼女を好きになると同時に、守らなきゃと強く思うようになります。その決意は13歳の冬の日も、さらに呪いのように貴樹の心を締め付けていました。 高校時代も社会人時代も、さらなる高みを目指していた貴樹。その根底には彼女に恥じない自分になりたいという思いがあったのではないでしょうか。その生き方はきっと苦しかったはずです。 長らく逃れられなかった初恋の呪縛。踏切での出来事を経て、貴樹はようやくその呪縛から解放されたのです。彼の未来を考えれば、この結末はハッピーエンドと言えます。
登場キャラクターと声優
遠野貴樹役/水橋研二
主人公の遠野貴樹(とおの たかき)は、転勤族の家に生まれた1人っ子。小学3年生の時に東京の学校に転校しました。その後、同じ学校に転校してきた明里と出会うところから物語は動き出します。 貴樹の声を少年から大人まで通して担当したのは東京都出身、1975年生まれの水橋研二(みずはしけんじ)です。 1996年の映画『33 1/3 r.p.m.』で、初主演を務めました。 その後、映画やテレビドラマ、CMなど多くの作品で活躍し、フジテレビのスペシャルドラマ『これでいいのだ!! 赤塚不二夫伝説』では赤塚不二夫役を務めました。 本作の貴樹役に選ばれた経緯ですが、新海監督が水橋出演の映画『月光の囁き』を観たことがきっかけでした。彼の落ち着いたウィスパーボイスが新海監督の印象に残っており、貴樹役の声優を決める際に水橋が思い浮かんだそうです。
篠原明里(少女)役/近藤好美
貴樹の初恋の少女・篠原明里(しのはら あかり)は、貴樹と同じく一人っ子。親の都合で転勤が多く、境遇が似ていることから彼と親しくなり、淡い恋心を抱きます。 1話「桜花抄」で少女時代の明里を務めたのは、埼玉県出身、1988年生まれの近藤好美(こんどうよしみ)です。 ファッション雑誌のモデルをしながらドラマやCMにも出演していましたが、2011年には所属事務所を退所し、一般企業に就職。結婚したこともブログで報告されています。 明里役はMDオーディションが行われました。彼女の録音での演技が少し気になった新海監督が実際に会ってみたところ、自然体の声が格段に良く、また儚さも感じる声が役のイメージと一致し決定しました。
篠原明里(大人)役/尾上綾華
3話「秒速5センチメートル」で明里は成人した姿で登場します。栃木県の両親と披露宴についての会話がされているシーンで彼女の声が確認できます。 大人になった明里を演じたのは埼玉県出身、1982年生まれの尾上綾華(おのうえあやか)です。 ファッション雑誌のモデルやキャンペーンガールなどの活動のほか、情報番組『スッキリ!!』にも出演歴があります。 本作のMDオーディションで大人の明里役に決定した理由は、声が美しいこと、そして少女時代を務めた近藤好美と声質が似ていたためです。少女の儚さが消え、落ち着いた大人の女性となった明里にイメージが合ったと新海監督が語っています。
澄田花苗役/花村怜美
貴樹の転校先の種子島の少女・澄田花苗(すみだ かなえ)。彼女は貴樹に一目惚れをし、貴樹と同じ高校に進みますが、その想いを伝えられないでいます。 そんな花苗の声は東京都出身、1984年生まれの花村怜美(はなむらさとみ)が担当しました。 映画『バトル・ロワイアル』中川有香役などの女優活動を経て、2002年に声優としてデビューした彼女は、アニメ『東京マグニチュード8.0』で主人公の小野沢未来役を務めるほか、声優ユニットsorachocoとしての活動歴もあります。 花苗役もMDオーディションが行われ、決まった経緯は少女時代の明里役の近藤好美とほぼ同じでした。実際に会って聴いた声が録音時より自然で良く、演技にもそうした面を出してほしいと新海監督は思ったそうです。
水野理紗役/水野理紗
貴樹と3年間付き合った水野理紗(みずの りさ)。貴樹の心が自分にないことを感じていて、「1000回のメールのやりとりをして、心は1センチくらいしか近づけなかった」という内容のメールを送り別れを告げました。 演じたのは神奈川県出身、1978年生まれの水野理紗(みずのりさ)です。 郷田ほづみ率いる劇団「湘南テアトロ☆デラルテ」で看板女優として活躍するほか、アニメ『アカメが斬る!』では殺し屋のナジェンダ役を務めました。 本作では花苗の姉役も兼任しました。新海監督が手掛ける映画の常連声優であり、本作以外にも『雲のむこう、約束の場所』や『星を追う子ども』、『言の葉の庭』などの彼が監督した作品に出演しています。
「連作短編アニメーション」という構成への想い
『秒速5センチメートル』はひとりの少年を軸にした「連作短編アニメーション」と称していますが、新海監督が初めに考えたのは10本の異なる内容のオムニバス映画だったそうです。 しかし作品全体を観た時に、「ひとつのもの」としての満足感を込めたいと思い、10本の中からストーリーを繋げられそうな3本に絞りました。 「ひとつのもの」を目指すならば、わざわざ連作短編にせず長編の物語にまとめてしまう方法もあります。しかし生活の隙間にすっと入れそうな長さの作品、短い中でもしっかりと語られた作品を作りたいという新海監督の思いから「連作短編アニメーション」という形になったといいます。
『秒速5センチメートル』の切ない恋模様を解説!美しさが光る新海誠ワールド
実写化でも話題の『秒速5センチメートル』について解説しました。短編3部作として描かれているので1つのエピソードは短めで、物語もそう複雑ではありません。ですが本作は映像の美しさと音楽とのハーモニーが見事。ぜひ映像でこの恋の結末を見届けてみてください!