『もののけ姫』タタラ場の謎を徹底解説!ジブリに登場した女性の国は実在の場所?!
『もののけ姫』は、1997年に公開されたジブリの長編アニメ映画。当時、日本の歴代興行収入記録を塗り替える大ヒットを記録し、アメリカやイギリスなどでも劇場公開されました。 そんな『もののけ姫』の劇中、物語の重要な役割を持つ場所として登場するのがタタラ場です。 本記事では、謎多きタタラ場について「モデルとなった実在の場所」や「アシタカがタタラ場に残ろうと言った理由」などを徹底解説していきます。 ※この記事は映画『もののけ姫』のネタバレを含みます。未鑑賞の方は注意してください。
アシタカがたどり着いた『もののけ姫』のタタラ場
エミシの村に住む少年アシタカは、タタリ神を退治した際に「死の呪い」を受けてしまい、呪いを解く旅に出ます。その道中に出会ったのが、エボシという女性が率いるタタラ場でした。 その場所では、女性たちが武器の材料である鉄を作っています。またエボシは、山の「もののけ」や村の鉄を狙う侍たちから村を守るため、村人たちに「石火矢」という大砲を作らせていました。 山や川の自然を削って鉄を作り、石火矢でもののけを攻撃するエボシとタタラ場は、タタリ神が生まれる原因にもなってしまいます。 「タタラ場」というのは、実際に古くから日本各地に存在した昔の製鉄所です。砂鉄を沸かして鉄を取りだすという方法で鉄を作り出していましたが、近代になると洋式製鉄が主流になり、第二次世界大戦が終わるころにはほぼ途絶しています。
タタラ場は実在する製鉄所がモデル!場所は一体どこ?
現在、生産施設が残っているタタラ場は、島根県雲南市吉田町にある「菅谷たたら」のみです。そして、『もののけ姫』に登場するタタラ場のモデルはこの菅谷たたらだと言われています。 モデルだと言われる理由として、深い森に隣接していること、世界1とも言われる高品質な鉄を多く生み出していたこと、そして、中国地方には「金屋子神(かなやごかみ)」と呼ばれる製鉄の神の言い伝えがあることなどが挙げられます。 また近世以前の中国山地では、製鉄の為に樹木が伐採されるなど、環境破壊があったと問題視されています。自然を破壊したことでタタリ神を生んだ『もののけ姫』の設定にも、どこか似ていると言えるのではないでしょうか。 1751年から170年間操業した菅谷たたらは、現在、国の重要有形民俗文化財に指定されています。
『もののけ姫』に登場する謎多きタタラ場を考察!
タタラ場には子供がいない?
元気な女性たちがタタラ場で働き、多くの人で賑わう村ですが、注意して見てみると子供が1人も登場しないことがわかります。これは、宮崎駿監督がわざと子供を描かなかったからなのです。 映画公開当時の劇場用パンフレットに掲載されたインタビューで、宮崎駿監督は「男が守らなければいけない女とか、家族の中の女性というふうにはしないで、わざと切り離した。本当は子どももいたんでしょうけど、子どもを入れるとややこしくなるから、あえて入れなかった。」と語っています。 「そのうち、子どももいっぱい生まれてくるんでしょうけど、今はまだそういう時期じゃないっていう状態のタタラ場にしておこうと思った」と続けており、争いの耐えない、とても子供を育てられるような環境ではないタタラ場を描きたかった、ということがわかりますね。
包帯人間はハンセン病患者?
タタラ場には包帯を巻いたミイラのような姿の人が登場しますが、「病者」と名付けられた彼らは、ハンセン病患者ではないかと言われています。 ハンセン病とは「らい菌」という菌がおこす感染病。主に皮膚と末梢神経に病変を起こします。現在は完治可能な病ですが、その外見の変化と誤った知識によって恐れられ、呪いや天刑と言われていたこともあります。 この説を裏付ける根拠として、宮崎駿監督は2016年に登壇した講演会で、「実際にハンセン病らしき人を描きました」と語っています。 「もののけ姫という映画を作りながら、はっきり“業病(ごうびょう:悪業の報いとしてかかる難病)”と言われた病を患いながら、ちゃんと生きようとした人たちのことを描かなければいけないと思ったんです」と、作品に込めた意思と覚悟も述べています。 包帯を巻いた人がハンセン病患者の暗喩として描かれたことは間違いないでしょう。
アシタカがタタラ場に残ろうと言った理由とは?
人間社会で差別された人たちを受け入れる国
ハンセン病患者に手を差し伸べるエボシのタタラ場。また、本来タタラ場は女人禁制であるにもかかわらず、エボシは身売りされた娘達を買い取り、ここで仕事を与えています。 つまりこのタタラ場は、エボシが人間社会で居場所のなくなった人々を受け入れている国なのです。彼らは家族や仲間たちではなく個々に流れ着いた人々だと考えると、この場所に子供がいないことも頷けます。 そんな場所を見つけたアシタカ。実は彼自身、タタリ神の呪いを受けて村を追い出された居場所のない青年です。宮崎駿監督の企画書などを収録した本『折り返し点―1997~2008』でも、“差別的に村から追いやられている”と表現されています。 帰る場所のないシタカが生きる場所は、タタラ場しかなかったのです。
『もののけ姫』のキャッチコピー「生きろ。」
『もののけ姫』は「生きろ。」というストレートなキャッチコピーでも有名です。このキャッチコピーは、著名なコピーライターである糸井重里が作りました。 劇中でアシタカが発した名言「生きろ、そなたは美しい」の「生きろ」でもあるこのキャッチコピーには、「社会からはみ出して自分に生きる価値がないと感じたとしても、それでも生きろ」と言う力強いメッセージが込められています。 これは先ほど紹介した、ハンセン病患者を描いた経緯について語る宮崎駿監督の言葉「ちゃんと生きようとした人たちのことを描かなければと思った」とも通じるメッセージです。 アシタカはタタラ場という場所に居場所を見つけることで、「生きること」を決意したのでしょう。
タタラ場のシーンで流れる曲:「夕暮れのタタラ場」
タタラ場のシーンで流れる曲は、多くのジブリ作品で楽曲を担当した久石譲が手がけた「夕暮れのタタラ場」です。たった39秒と短く、歌のない楽曲ですが、もののけ姫のサントラの中でも隠れた名曲です。 厳しい逆境を乗り越えてきた人々に手を差し伸べる優しさと強さを持ちながら、自然を怒らせてしまった「悪」的存在でもあるタタラ場に想いを馳せながら、ぜひ聞いてみてください。
『もののけ姫』のタタラ場は実在の製鉄所!作品の重要なメッセージを伝えていた
『もののけ姫』に登場するタタラ場について解説しました。実在の製鉄所がモデルになったというこの場所の描写を紐解いてみると、重要なメッセージが込められていることがわかります。 最後には「みんなはじめからやり直しだ。ここをいい村にしよう」と言うエボシ。人間と自然が共存する方法を模索しながら明るい未来へ向かい、子供達が駆け回る村になっていくのではないでしょうか。そんなことも考えながら、ぜひもう一度『もののけ姫』を見てみましょう!