2023年7月7日更新

『もののけ姫』猩々(しょうじょう)は何のメタファー?森の賢者のモデルや語源を解説

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『もののけ姫』

『もののけ姫』は1997年にスタジオジブリから公開されたアニメーション映画です。ところで作中に登場する「猩々」(しょうじょう)というキャラクターは一体何者なのでしょうか。 この記事では猩々の正体やキャラクターが表すメタファーについて考察していきます

『もののけ姫』を

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【特徴】猩々(しょうじょう)とは何者なのか

愚かなもののけとして描かれる

「猩々」(しょうじょう)とは本来、オランウータンの和名です。そのため、作中で猩々はオラウータンやゴリラのように描かれています。ただし目は鋭く赤く光っていて、その容貌は非常に不気味です。1匹で行動するのではなく、複数頭で群れをなしています。

なぜ人間を喰おうとしたのか?

もののけ姫

そんな猩々は、人間に対して森を奪われたという憎悪の念を抱いていました。そこでサンに対して石を投げ、瀕死状態のアシタカを差し出すように要求します。というのも猩々は人間を食べれば人間の力を手に入れることができると考えていました。そこで猩々は、瀕死になった主人公・アシタカを食べようとするのです。 このように猩々は矮小なもののけとして描かれています。

「森の賢者」としての名残も見せる

『もののけ姫』

猩々は卑屈で矮小な存在ですが、「森の賢者」としての一面も持っていると考えられます。それは、エボシとアシタカが石火矢製造所(たたらばのはずれ)で話しているシーンから考察が可能です。ここでは猩々は、木を植えに禿山に戻っていきます。 猩々は本来、自分たちが生きていくために木々を繁栄させて森を守ってきました。こうした姿を見て森の住人たちは、彼らを尊敬していたのです。 しかし人間によって森を荒らされてしまったことから、卑屈な性格へと変化してしまったのでしょう。そして人間の力までも手に入れたいと思うようになったのかもしれません。

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【解説①】中国由来の想像上の動物「猩々」

猩々についての初めての記録は、中国で3世紀に書かれた「礼記(曲礼の篇)」という書物に記されています。そこに書かれていることは、猩々は喋ることができても、結局は動物でしかないということです。つまり、いくら弁舌が達者であっても、心は動物のレベルだと主張しています。また別の文献では、「酒好き」として描かれていることもありました。 では本作に登場する猩々と比較してみましょう。『もののけ姫』に登場する猩々も、サンに向かって片言の言葉を話していました。しかし、森を守ろうとする「森の賢者」としての一面も持っています。 このように猩々は、はるか古代から存在が認識されていました。 そして喋ることができるのですが、神格化されているというよりは、動物の域を出ていないような表現がされています。そして酒好きであると表現されることもあり、猩々は室町時代ごろまで、あまり人々からは良いイメージを持たれていません

【解説②】中世日本の庶民に受け入れられる

能の演目「猩々」

あまり良いイメージを持たれていなかった猩々ですが、能の演目「猩々」が転機となります。その能は、高風という親孝行な若者の物語でした。高風は夢のお告げにより、市で酒を売り始めます。そこではいくら酒を呑んでも顔色が変わらない不思議な客がやってくるのです。 その客は海中に住む猩々であると高風に告げました。そして高風は川のほとりで酒壷を供えていると、猩々が現れます。そして一緒に酒を呑んで、猩々は高風の親孝行ぶりを褒めました。そして猩々は、どれほど汲んでも尽きることがない酒壷を彼に与え、海中に帰って行くのです。 このように、「猩々」という能の演目で描かれる猩々は親しみやすいキャラクターとして描かれました。こうして猩々は、能をきっかけに親しみやすい神、もしくは妖怪として知られるようになったのです

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天然痘の魔よけ信仰に

また猩々は天然痘の魔よけ信仰の対象になっていた時代もあります。それは医学が未発達であった頃、人々は呪術的な方法しか頼れるものがなかったからです。 当時、天然痘(疱瘡)は疱瘡神の仕業だと考えられていました。そして疱瘡神は赤が嫌いだとされていたので、顔が赤い猩々が信仰対象へと変化していったのです

【考察】猩々はたたら場以外に住む人間のメタファー?

『もののけ姫』

猩々は作中で、たたら場以外の人間のメタファーとして登場しているのではないか、という考えもファン野中では囁かれています。 というのも、たたら場は製鉄所であり、当時は有害な水を川へそのまま流していました。 その有害物質は川の下流に住む人々の元へと流れ着くと、そこで住む人々の健康を脅かします。場合によっては奇形児が誕生することもあり、よその人々はその村を差別することもありました。するとその村の人々は、居場所を失くしてしまうのです。

『もののけ姫』

そこで、たたら場での公害という視点を加えて登場人物を整理してみましょう。まず、たたら場では生活のために砂鉄から鉄を取りだそうとする人間がいます。一方で、これまで森で暮らしていたもののけとサンがいます。そしてアシタカはもののけと人間の争いに巻き込まれてしまいます。 ここまでは映画ではっきりと描かれている構図です。そこへ「たたら場以外の人間」という視点を加えてみるとどうでしょうか。たたら場以外の人間は、人間でありながらたたら場からの有害物質の被害を受けています。そんな人々の姿を、猩々という形で描いたのではないでしょうか

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【名言】猩々の作中のセリフを紹介

人間やっつける力 欲しい だから食う。

『もののけ姫』

たたら場での戦いによって負傷したアシタカとサンを包囲し、彼らに向かって言ったセリフです。「森の賢者」と呼ばれていた猩々でしたが、森を奪った人間への憎悪によって浅はかな考えを持つようになりました。

シシ神様 戦わない わしら 死ぬ。山犬の姫 平気 人間だから。

『もののけ姫』

山犬の姫として崇めていたサンですが、猩々たちはサンが人間であることに気が付いていました。そこで山犬は「無礼な猿め その首かみ砕いてやる!」と怒り出します。猩々たちは、遠くから石を投げることしかできません。

【声優】猩々(しょうじょう)を演じたのは名古屋章

『もののけ姫』

猩々の声を担当したのは、声優・俳優の名古屋章(なごや あきら)です。『もののけ姫』では牛飼いの頭の声も担当しています。 名古屋章は1930年生まれ。1950年ごろからラジオドラマに出演し、美声で人気を獲得しました。1952年のラジオドラマ『ぼたもち』で主演を務め、芸術祭賞を受賞しています。 またテレビドラマにも多数出演し、ドラマ『帰ってきたウルトラマン』のナレーター役や映画『日本沈没』(1973年)などで活躍。2003年に亡くなるまで、名脇役俳優として知られていました。 声優としては、「トイ・ストーリー」シリーズのMr.ポテトヘッド役や、ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険』のペインズ警部役の吹き替えなども担当しています。

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猩々(しょうじょう)は『もののけ姫』独自の脚色がなされていた

猩々は古代中国から伝わってきた伝説の生き物でした。当初はあまり良い印象を持たれていない存在でしたが、能の演目をきっかけに親しみやすい神、妖怪として知られるようになります。 そんな猩々は『もののけ姫』において、「森の賢者」という新たな一面を加えることで、独自の脚色がされました。この記事を読んで猩々に興味を持った人は、ぜひ『もののけ姫』を見返してみてください。

コミック版『もののけ姫』を