2023年7月19日更新

『もののけ姫』最大の謎「こだま」の正体とは?意外なキャラへ進化する?

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もののけ姫

公開から20年以上経っても愛され続けているスタジオジブリの名作『もののけ姫』。壮大なテーマを持った奥深いストーリー、久石譲による美しい劇中音楽、サンという魅力的なヒロインなど、様々な理由で人気を博しました。 中でも他のジブリ作品にはない魅力は、その幻想的な世界観です。人間と動物たちの中間のような存在のサンは、不思議な姿をした生きものたちに囲まれて生きています。 そんな不思議な生きものたちの中で、特に印象的な姿をしているのがこだまです。白く小さな体とただ黒い穴が開いているだけのような顔は、どこか可愛らしく、同時に不気味な印象も与えます。彼らは何者なのでしょうか?あの姿をしているのはなぜなのでしょう? こだまはそんなたくさんの謎に包まれたキャラクターです。今回は、そんなこだまの謎について考察します。

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こだまの考察前に『もののけ姫』のテーマを振り返る

『もののけ姫』

こだまの謎について考察する前に、まずは『もののけ姫』のテーマをおさらいしましょう。この作品の大きなテーマは「人間と自然の対立」です。 エボシをはじめとするタタラ場の住民たちは、自分たちがより豊かになるために森を破壊しようとしています。それに対して怒っているのが、シシ神たちをはじめとする森の神々、そして彼らのもとで暮らすサンです。 タタラ場の住民たちとサンたち自然の側の両方を理解しているアシタカは、自然と人間とがどうにかして共に生きられないかと悩みますが、両者はついに戦いを始めてしまうのです。 サンが暮らす森には、シシ神以外にも不思議な生き物が住んでいます。人の言葉を話す山犬たちや、猩々(しょうじょう)と呼ばれる、赤く光る眼を持った猿たち。こだまもそんな、不思議な生き物の一つです。彼らは皆、神々や精霊のような、森をつかさどり守っている者たちだと考えられます。

こだまの謎について考える

『もののけ姫』

それでは、ここからはこだまの謎に包まれた正体やその生態について考察します。

こだまの正体は?

『もののけ姫』に登場するこだまは基本的にひらがなかカタカナで表記されていることが多いですが、漢字で表記すると「木霊」。文字通り、木に宿っている精霊なのです。 本作の舞台となっているのは中世の日本。日本では古くから、樹木のような自然界に存在するものには神的な力が宿っているとする信仰がありました。実際に、古くから生えている樹木には木霊という名前の精霊(妖怪といえるかもしれませんが)が宿っておりその樹木を守っている、という言い伝えもあります。 また、シシ神の森は屋久島の森をモデルにしているのは有名な話ですが、実は屋久島には「木霊の森」という森があるのです。その森で写真を撮ると、まさに『もののけ姫』のこだまのような白くて小さい「なにか」がたくさん映るという都市伝説もあるとか! この屋久島の森だけでなく、その周辺でも樹木や森の精霊の伝説は言い伝えられています。特に有名なのが沖縄の「きじむなー(きーぬしー)」です。小さな体が特徴的な精霊で、古い樹木に宿って森を守り、人間たちと古くから共生していると言われています。こだまと少し似ていますね。 こだまの正体は樹木に宿る精霊ということで間違いなさそうですが、モデルとなった屋久島の森やその周辺で語り継がれる精霊、妖怪たちから着想を得ているようです。

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こだまと人間の関係

本作に登場する森の住民たちと人間とは、あまり良い関係を築けていないようです。物語の終盤では、エボシたちがシシ神の首を取ろうとしますし、そんなエボシの腕をモロの君が噛み千切ってしまいますし、敵対しているものが多くいます。 こだまと人間たちはどのような関係なのでしょうか?故郷を離れて初めてこだまを見たアシタカは「ここにもこだまがいるのか?」と言いますから、人間の身近なところに多く住んでいるものなのでしょう。また、トトロのように子どもにしか見えないものでもなさそうです。 アシタカがこだまを見たとき、一緒にいた甲六(タタラ場の住人で、アシタカとエボシが出会うきっかけとなった人物)は「こいつらがシシ神を呼ぶんだ」と恐れるように言います。少し不気味な姿のこだまに対する恐れにも、木々の精霊である木霊に対する畏怖の気持ちのようにも考えられます。 また、アシタカはこういうセリフも言います。「好きにさせておけば悪さはしない。森が豊かなしるしだ」 このセリフを解釈すると、彼らは豊かな森にしか住んでいないと考えられます。悪さはしない、と言っていますから、特に人間たちと戦ったり敵対したりもしていないと思われます。

こだまのデザインの裏話

こだまの姿はなにかをモデルにしたわけではなく、デザイナーが独自に考えたものです。 しかし宮崎監督は、このデザインを考えついたのは「森に何かがいるのが見えるスタッフ」だと語りました。先に述べたように、シシ神の森のモデルとなった森で写真を撮ると「なにか」が写るとも言われています。そのデザイナーには森にこだまたちがいるように見えたのかもしれません。 木々に宿る生命の重みをわかりやすくするために、宮崎監督はこだまというキャラクターを登場させたのだといいます。

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こだまが首を振る理由

『もののけ姫』

作中、いくつかのシーンでこだまがカラカラという音を立てて首を振っています。これはなぜなのでしょう?なにか特別な意味があるのでしょうか? 正確な理由は明らかになっていません。こだまについていくつかのことを語っている宮崎監督も、この習性については触れていないので、ネット上ではファンたちによってさまざまな憶測が飛び交っています。ここではそのうち2つの説について解説します。

①会話説

ひとつは、首を振るときの音によって会話をしているのではないか?というものです。作中、デイダラボッチが登場するシーンで、彼らはいっせいにカラカラと音を鳴らします。もしかしたらこの時、互いにコミュニケーションを取っていたのではないか?という考えです。

②呼吸説

もうひとつは、首を振ることで呼吸をしているのではないか?というものです。顔に開いている穴が気孔のような役割を果たしていて、首を振るときにそこから空気を入れ替えている、という考えで、木の精霊である彼らは植物と似た体の仕組みである、という予想に基づいています。 どちらも説得力がありますが、実際のところどうなのかは誰にもわかっていません。

最後のシーンのこだまは何を表しているの?

物語の終盤、破壊されていく森の中で、こだまたちの死体が大量に降ってくるシーンがあります。木々の精霊である彼らは、木が死んでしまうと生きていくことができないのでしょう。おそろしく、厳かなこのシーンには、キャラクター化することで木々の命の重みをわかりやすくするという宮崎監督の意図がよく表れています。 その後、荒廃しきった森に新芽が芽吹き、その中に一匹だけこだまがいる、というシーンで物語は終わります。こだまが大量に死んでしまうシーンは、森が破壊されてしまったことの暗喩でしたが、ここで新たにこだまがいるということは、ここから森が再生していくということを表していると考えられます。 宮崎監督自身も「このラストシーンは、ここから何千、何万もの歳月をかけて森が再生していくことを象徴している」とDVD「もののけ姫はこうして生まれた」の中で語っています。

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こだまはトトロになるって本当?

先に述べた、ラストシーンのこだまの登場から長い年月をかけて森が再生する、というインタビューには続きがあるのです。 宮崎監督は、同インタビューでこう語っています。 「それ(ラストシーンのこだま)がトトロに変化したって(笑)。耳が生えていたってことにすれば、そうすると首尾一貫するんです」 ラストシーンの、ぽつんと一匹だけいるこだまはトトロに進化するとのことなのです。まるで嘘のような話ですが、トトロの年齢は1302歳。中トトロは679歳で、小トトロでも109歳です。 『もののけ姫』の舞台となったのは中世。現代からだいたい700~500年前のことです。こだまが、外見の似ている小トトロになったとしたら意外ですが、うなずける話ですね。

こだま=自然そのもの(物語のテーマ性を象徴する存在)

可愛らしくもあり不気味でもある、不思議な存在・こだま。シシ神やモロと違い、言葉を話すことのできない、植物によく似た妖精のような存在です。 その可愛らしさと不気味さは、人間が自然に対して抱く安心感、あるいは恐怖心を象徴するものなのかもしれません。