2026年8月28日更新

『もののけ姫』乙事主(おっことぬし)のルーツに迫る!偉大な猪神はなぜ闇に堕ちたのか

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『もののけ姫』(1997年)乙事主

乙事主(おっことぬし)は、スタジオジブリ映画『もののけ姫』に登場する500歳の白い猪神です。鎮西(九州)から一族を率いて海を渡り、シシ神の森を守るために駆けつけた偉大な王でありながら、終盤ではタタリ神へと姿を変えてしまいます。 1997年の公開以来愛され続ける本作のなかでも、とりわけ切ない運命をたどったこのキャラクターを深掘り。基本情報やタタリ神になった理由、モデルになった神話、名言まで紹介していきましょう。 ※この記事は『もののけ姫』の重要なネタバレを含みます。 ※ciatr以外の外部サイトでこの記事を開くと、画像や表などが表示されないことがあります。

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乙事主(おっことぬし)の基本情報・特徴解説

種族イノシシ
立場鎮西(九州)の王
年齢500歳
声優森繁久彌

乙事主は4本の牙を持つ巨大な猪神です。もののけの住む「シシ神の森」を破壊しようとするエボシ御前たち人間を憎み、彼らを止めるためにやって来ました。 誇り高く義理堅い性格で、タタリ神となってしまった仲間のナゴの守から死の呪いを受けたアシタカや、サンに対しても、彼らの言葉に耳を傾け尊重する心の広さがあります。アシタカには、戦が始まる前に逃げるよう忠告するなどしました。

目が見えない

『もののけ姫』(1997年)

サンの「乙事主さまの目になりに行きます」というセリフから、乙事主は老齢のため目が見えなくなっていることがわかります。目やにが出ていたり、黒目が白く濁っていたりするところを見ると、白内障を患っているようです。 しかし鋭い嗅覚と洞察力で、ジコ坊の偵察を見抜くなど、そのハンデを感じさせません。また長距離を移動したり、重傷を負いながらも巨大な岩を楽々と粉砕したりと、高い身体能力を保っています。

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【考察①】乙事主はなぜタタリ神になった?

『もののけ姫』(1997年)

乙事主はサンとシシ神のもとへ向かう途中、仲間の猪神たちの毛皮をかぶった人間たちに取り囲まれたことで、タタリ神になってしまいました。 自身も瀕死の重傷を負ったうえ、無残に殺された仲間たちを残酷な方法で思い出させられたことで、乙事主は人間への怒りと憎しみからタタリ神になってしまったと考えられます。 またモロの君は、タタリ神となって果てたナゴの守について「きやつは死を恐れたのだ。今の私のように」と語っていました。モロ自身も人間の毒つぶてを身に受けていましたが、タタリ神にはなりませんでした。それは彼女が死に向き合い、受け入れていたからでしょう。 人間に対する憎しみに加え、人間に殺される恐怖もまた、乙事主をタタリ神へと近づけたのかもしれません。 しかしサンが暴走する乙事主に触れたとき死の呪いを受けなかったことから、彼は完全にタタリ神になったわけではなかったことがわかります。そして完全にタタリ神となる前に、シシ神に命を吸収されたのでした。

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【考察②】シシ神はなぜ乙事主の命を吸い取った?

『もののけ姫』

シシ神の最後の行動の理由は明示されていませんが、その理由はいくつか考えられます。 まずは半分タタリ神に堕ちてしまった乙事主の救済です。タタリ神の被害から森を守りたいという理由ももちろんあったと思いますが、死ぬ覚悟を持って森を守るために戦いにやってきた乙事主に、せめて乙事主の自我が残っているうちに殺してあげたいと思ったのではないでしょうか。 また乙事主とモロは恋仲だった時期があるそう。モロの死も看取ったシシ神は2人の関係性を知っていて、乙事主をモロのもとに送ってあげたいという気持ちもあったのかもしれません。

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【関係性①】乙事主と犬神モロは元恋人の仲

もののけ姫

モロがタタリ神になりかけている乙事主を見て、「言葉まで失くしたか」と言うシーンを収録した際、宮崎駿監督は、モロの声優を務める美輪明宏に乙事主とモロがむかしは“良い仲”だったという裏設定を明かしたそうです。 この裏設定によれば、300歳のモロと500歳の乙事主は、若い頃から交流があり、1度は恋仲になりました。ただし語られているのは「100年ほど前に別れた」という点までで、別れの理由までは明かされていません。人間を憎む気持ちは同じでも、彼らへの対抗の仕方をめぐる考えの違いがあったのでは、とファンのあいだでは考察されています。 宮崎監督はこの設定を伝えることで、モロの女らしさを表現してもらいたかったと語っています。

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【関係性②】乙事主とナゴの守は兄弟の仲

『もののけ姫』

ナゴの守と乙事主は猪神の一族として、元々同じ出自を持っているようです。乙事主とともに鎮西(九州)からやって来た猪神たちには、ナゴの守は「美しく強い兄弟」と呼ばれていました。 乙事主が一族を率いて九州から海を渡り、シシ神の森へ駆けつけたのは、人間の手から森を守るためでした。ナゴの守がタタリ神となって果てた経緯を知ったのは、森に着いたあとアシタカから聞かされたときで、「一族からタタリ神が出てしまった」と悲しみをにじませています。それでも一族全員の命を懸けてでも人間に一矢報いようとする姿からは、猪神の誇りと絆の強さが伝わってきます。 猪神たちは大半が焦げ茶色の毛並みですが、ナゴの守は茶色、乙事主は白い毛並みが特徴。乙事主は500歳の最年長です。

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【来歴】乙事主はどこからきた?

『もののけ姫』

乙事主の最初の登場シーンでは、猟師が彼を見て「鎮西の乙事主だ」と言います。 「鎮西」とは九州の古い呼び名(大宰府の別称「鎮西府」に由来します)で、このセリフから乙事主が九州から海を渡ってやってきたのだとわかります。鎮西の猪神の王である乙事主は、人間たちの横暴を食い止めるため、大勢の仲間を伴って中国地方にあると思われる「シシ神の森」に来たのです。

【モデル】古事記に登場する2つの猪の神話

『もののけ姫』

日本神話が記された古事記には、人間の王や英雄の前に立ちはだかる大猪がたびたび登場します。 猪は害を加えてくる人間に対して、王や英雄をも上回る大きな力で罰を下していました。

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伊吹山の神の化身

1つ目の神話は、伊吹山の神の化身である白い大猪の話です。 あるとき英雄ヤマトタケルは、現在の滋賀県と岐阜県にまたがる伊吹山に行きます。彼はその山の神を倒し、自分が土地を治めようとしていました。 山を登ろうとした彼は、ふもとで牛ほどもある大きな白い猪に遭遇。そして「この猪は山の神の使いに違いない。帰るときに殺してやる」と言いました。 しかしそのまま山を登っていったヤマトタケルは、激しい雹に打たれて気を失ってしまい、その後なんとか山を下りることができました。 実は彼が遭遇した大猪は使いではなく、山の神自身が猪に化身したものだったのです。使いと言われて怒った神は、雹を降らせてヤマトタケルを追い返したのでした。

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葛城山の神 一言主(ひとことぬし)

もう1つ、乙事主のモデルとなったと思われる神話があります。 雄略天皇が現在の奈良県と大阪府にまたがる葛城山に登ったとき、彼の目の前に大きな猪が姿を現しました。天皇がその猪に向かって矢を射ると、猪は怒って突進してきます。天皇は木に登って難を逃れました。 別の日、天皇が役人たちとともに再び葛城山に登ると、自分たちにそっくりな集団に遭遇します。天皇が「この国の王は私しかいないのに、そのようにふるまうのは何者だ」と尋ねると、相手は同じ問いを返してきました。 天皇が矢をつがえ「名を名乗れ」と言うと、相手は「葛城山の神、一言主である」と答えます。畏れを抱いた天皇が献上品を渡すと、一言主はその敬意に応え、一行を送っていったということです。 なお古事記では、この大猪の話と一言主大神の話は別々の説話として記されており、一言主が猪の姿で現れたとは書かれていません。一言主が乙事主と結び付けて語られるのは、主に「〜ぬし」という名前の響きの近さによるものです。伊吹山の神を含め、スタジオジブリや宮崎駿監督が乙事主のモデルだと公式に明かしたわけではなく、あくまでファンのあいだで語られている考察である点には注意が必要でしょう。

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乙事主の名前の由来

もののけ姫

乙事主の名前の「乙事」は、宮崎駿監督が別荘を構えることで知られる長野県諏訪郡富士見町の地名「乙事(おっこと)」が由来である可能性が高いと言われています。同町には「烏帽子(えぼし)」や「甲六(こうろく)」など、『もののけ姫』のキャラクター名と重なる地名がいくつもあるためです。なお監督の別荘があるのは乙事ではなく、同じ富士見町の烏帽子地区だと地元では伝えられています。 「乙事」という地名の由来については、もとは「乙骨(おつこつ)」だったものが転じたとする説が地元に伝わっていますが、そのさらに先の語源ははっきりしていません。「遠近(おちこち)」、つまり遠くと近くを意味する「あちこち」がなまったもので、「あちこちから人が集まってきた場所」を指すという説も語られています。 この説に沿って読むなら、あちこちから仲間が集まってきてしまうような乙事主のカリスマ性を思わせる名前だとも言えそうです。

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【名セリフ】熱く切ない乙事主の名言を振り返る

「ありがとうよ、お若いの……。悲しいことだが一族からタタリ神が出てしまった」

『もののけ姫』

アシタカから仲間であるナゴの守の最期を聞かされたとき、乙事主が語ったセリフです。 乙事主は人間を憎んでいるにも関わらず、アシタカの話に耳を傾け、身内の最期を教えてくれたことにお礼を言ったのです。 また元々は気高い猪神だったナゴの守が、正気を失い呪いを撒き散らすタタリ神となってしまったことについて、悲しみと悔しさのにじむ様子で語りました。 度量が広く仲間思いな乙事主の人格が滲み出るシーンでした。

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「たとえ、我が一族ことごとく滅ぶとも人間に思い知らせてやる」

『もののけ姫』

ナゴの守の最期を聞きアシタカに感謝した乙事主でしたが、エボシ御前たち人間への憎しみが消えたわけではありません。衰退しつつある猪神の一族は、いつか人間の食料として狩られるようになると彼は危惧していました。 「一度にケリをつけようなどと、人間の思うつぼだ」と言うモロに対して返したこのセリフから、乙事主の覚悟が伝わってきます。

「もどってきた!黄泉の国から戦士たちが帰ってきた!」

『もののけ姫』

瀕死の重傷を負い、サンとともにシシ神のもとに向かっていた乙事主。彼は人間に殺された大勢の仲間たちが帰ってきたことを察知します。 しかしそれは、猪神の毛皮をかぶった人間の一団でした。仲間たちの無残な亡骸に取り囲まれ、そのことに気づいた乙事主は、怒りと憎しみでタタリ神になってしまいます。 一瞬希望を見出した乙事主の声が、とても切ないシーンです。

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【裏話】乙事主率いる猪たちはなぜ泥を塗っていた?

『もののけ姫』

エボシたちとの戦いに挑む前に、猪神たちが互いに白い泥を塗り合っていました。目の周りは白く、体には何本もの線上の模様が施されています。この時、乙事主は彼らを「戦士たち」と呼んでいましたが、その姿は正に戦闘服に身を包んだ戦士そのものです。 これは戦場へ赴くための「化粧」で、勝利と無事を願うものだと考えられます。さらに、自らを鼓舞するため、戦闘意欲を高揚させるため、互いの絆を強めるための儀式のようにも感じられました。 元々、猪には「沼田場」という泥浴びをする場所を作る習性があります。昔から猟師たちは沼田場に山の神がいると信じていたようで、猪が泥を浴びるのは体を冷やしたり寄生虫を落としたりという意味があるようです。

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【声優】森繁久彌は1人で2役演じていた!?

森繁久彌

乙事主の声を担当したのは、元NHKアナウンサーで俳優、歌手の森繁久彌です。『もののけ姫』では乙事主のほかに、アシタカの村の老人役も演じています。 彼は俳優に転身後、舞台やラジオ番組で喜劇俳優として注目されるようになり、映画「社長シリーズ」や「駅前シリーズ」で人気を博しました。『夫婦善哉』(1955年)ではブルーリボン賞主演男優賞を受賞。 そのほかの受賞も多く、1975年に紫綬褒章、1984年に文化功労者などのほか、1991年には大衆演劇分野で初となる文化勲章も受章しています。 2009年、96歳で惜しまれつつもこの世を去りました。

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乙事主(おっことぬし)に関するよくある質問

Q. 乙事主(おっことぬし)とは何者ですか? A. 鎮西(九州)を治める500歳の白い猪神で、シシ神の森を守るため一族を率いて海を渡ってきました。 Q. 乙事主はなぜタタリ神になったのですか? A. 瀕死の重傷を負ったうえ、仲間の毛皮をかぶった人間に取り囲まれ、憎しみと死への恐怖に飲み込まれてしまいました。 Q. 乙事主の目が見えないのはなぜですか? A. 老齢による白内障とみられ、黒目が白く濁っています。それでも鋭い嗅覚と洞察力でジコ坊の偵察を見抜きました。 Q. 乙事主と犬神モロはどんな関係ですか? A. 若い頃から交流があり、1度は恋仲でしたが、100年ほど前に別れたという裏設定が明かされています。 Q. 乙事主の声優は誰ですか? A. 俳優の「森繁久彌」で、アシタカの村の老人役も兼ねています。

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『もののけ姫』乙事主は誇り高き猪神!切ない最期でも愛される王

もののけ姫

誇り高い猪神でありながら、最期はタタリ神となってしまった乙事主について紹介しました。人間との戦いのなかで多くの仲間を失い、傷ついた彼の姿はとても痛ましく悲しいものです。 彼の正体やモデルとなった神話などを知って、あらためて『もののけ姫』を観てみると新しい発見があるかもしれませんね。