『千と千尋の神隠し』リンの正体は人間か白狐?セリフやその後まで考察
リンは釜爺のボイラー室で千尋と初めて出会い、油屋の仕事を教えてくれる先輩。彼女は千尋と同じ人間か、あるいは……と、正体について様々な考察が行われています。 この記事では、映画『千と千尋の神隠し』(2001年)に登場するリンの謎多き正体に迫ってみました!また、リンのその後やセリフ、そして本作の中での役割も解説します。
【概要】『千と千尋の神隠し』リンのプロフィール

| 年齢 | 14歳くらい |
|---|---|
| 職業 | 油屋の湯女 |
| 声優 | 玉井夕海 |
リンの容姿は面長で目が細く、色白のスレンダー美女。14才という年齢を疑うほどの大人っぽさを除いて、人間の千尋と大きな違いはありません。 一人称は「俺」あるいは「アタイ」で、口調は荒っぽく男勝りな性格をしています。気が短いのがたまに傷ですが、相手が誰でも差別することはありません。油屋では客としてやって来る神様の接客ではなく、主に浴場などの清掃を担当します。 先輩の湯女を「お姉さま」と呼んで尊重し、男衆からも気軽に声をかけられているシーンがあることから、年齢や性別を問わず慕われているようです。懐に入れた者には人情に厚く、世話係を任された千尋に時に厳しく、時に優しく仕事を教える姉御肌な一面を発揮しました。
リンの声優を務めたのは?
リンに声をあてたのは、声優・女優・歌手として活動する玉井夕海です。音楽パフォーマンス集団「Psalm」に所属しており、2021年現在もアーティストとして精力的に活躍しています。
【正体】リンって何者?人間説からナメクジ説まで
リンの正体は、「人間」「白狐」「イタチ/テン」「ナメクジ」という4つの説があります。公式は人間だと紹介していますが、ファンのあいだでは白狐とする説が有力なようです。その理由は公式のラフデザインに、「リン(白狐)」と添えられているため。宮崎監督による初期案ということで支持されています。 それではこの4つの説をそれぞれ詳しく考察していきましょう。
①正体は人間?
劇場パンフレットのリンの項は、「湯屋での千尋の先輩。14才くらいの少女。不平、不満は多いが根本的な疑問は持たない人間。つっけんどんだが、やさしい面もある。」と記載があります。 さらに宮崎監督へのインタビューによって、リンは過去にボツ案となった『煙突描きのリン』の主人公をモデルにしたキャラクターだと判明しました。20歳のリンと60歳の男性の恋物語で、「千と千尋」を連想する銭湯も登場予定だったようです。 同作はセンシティブな内容だったためか、鈴木敏夫プロデューサーの説得で製作中止に……。企画を「千と千尋」に流用する辺りに、宮崎監督のリンへの思いが伺えます。 設定上は「人間がいない世界」でも、思い入れのあるリンを大幅に改変するとは考えづらく、人間説の根拠として挙げられています。監督は『もののけ姫』(1997年)の乙事主とモロの関係など、製作段階で設定を共有しないこともあり、裏設定として構想に入れたのかもしれません。
人間説への疑問

公式が「人間」と紹介しているため、一見、人間説が正しいように思われます。しかしリンが人間だとすれば、違和感を覚える点がいくつか存在するのです! リンは釜爺の頼みを聞く代わりにイモリの黒焼きをもらい、嬉しそうに食べていました。イモリは食用にできますが、好物にする人は少ないでしょう。そもそも、千尋との初対面で彼女が「(同族を相手に)人間がいんじゃん!」と反応したのも、「以前に油屋で同じような大騒動が~」という話題が1度も出なかったのも不自然です。 また人間には特有の匂いがあり、千尋は人間臭いと言われ従業員から嫌がられていました。 ハク曰く「3日ほど異世界の食べ物を食べれば消える」そうですが、リンが上手く油屋に潜入できたとしても、匂いを隠し通せたとは考えられません。
②正体は白狐?
リンの正体が人間ではない場合、次にファンの間で有力視されているのは白狐説です。 理由は公式のイメージボードや美術ボードなどを収録した書籍『The art of Spirited away―千と千尋の神隠し』のラフデザインに、「リン(白狐)」と添えられているため。宮崎監督による初期案ということで、濃厚な説だと思われます。 最終的に初期案をどの程度反映したかは不明ですが、先述のようにイモリを好んで食べていたことも、彼女が狐ならば違和感はありません。 また狐といえば、狸や犬、猫などと同じく人間に化けた逸話が残る妖怪。傾国の美女こと悪狐「玉藻前」の伝説が特に有名ですが、白狐となると話が変わります!白狐は稲荷大明神の使いであり、同一視して語られることもある善狐です。 狐火を灯して人間を道案内し、正しい道へ誘ったという話も数多く語られる白狐。異世界に迷い込んだ千尋を教え、導いたリンと重なるのではないでしょうか?
③正体はイタチ/テン?
作画監督の安藤雅司は、上記の書籍内で「リンは、イタチかテンが変ったキャラクターにしようという話が最初の頃にありまして~」と語っています。 目や口が輪郭からはみ出るほど大きかった見た目は、のちに宮崎監督の指示で面長に変更されたそうで、白狐に統一しようとした気配も。一方で、安藤は「最終的には普通のちょっと背の高い女の子になりましたね。」とも明かしていて、人間説の根拠になり得るかもしれません。 イタチ/テン説は初期案に含まれていたものの、製作過程で廃棄されていると考えられます。
④正体はナメクジ?
油屋の従業員たちの大半が、男はカエル、女はナメクジをモデルにして描かれています。このことついて宮崎駿監督は「僕らの日常ってカエルやナメクジみたいなもんじゃないかと思っているんです… pic.twitter.com/kINRyoTV4K
— アンク@金曜ロードショー公式 (@kinro_ntv) November 21, 2014
油屋の従業員の男衆は大半がカエル、女衆は大半がナメクジをモデルに描かれているため、リンもナメクジでは?との説もあるようです。 しかし(ごく一部を除き)女衆は身長が低くふくよかで、麻呂眉にのっぺりした顔立ちと、リンとは似ても似つかない容姿をしています。千尋に対する態度や、明確に油屋を辞めたがっている点などリンには異質な点が多く、他の女衆とは一線を画した存在と言えるでしょう。 女衆はナメクジ=リンも同じというだけでは、説としての信憑性に欠けるかもしれません。
なぜ「動物・人外説」が多いのか?
リンは動きが俊敏で、身軽な印象を受けます。やや鋭い目つきとあわせて、その身のこなしは人間というよりも野生動物のよう。 また、油屋の他の従業員のように店を自分の居場所だと思っている様子が薄く、かといって他に帰る場所もなさそう。その少し周りから浮いている雰囲気が、人間でも妖怪でもない動物や人外を想起させるのでしょう。
【考察】リンはその後どうなった?

リンのその後は描かれていませんが、店を出て海の向こうの町に行くことを夢だと語っていたリンですが、その後も引き続き油屋で働いていると予想します。 しっかりもののリンが湯婆婆の支配から抜け出すような騒動を起こすとは考えにくいですし、千尋が起こしたような奇跡はそうそう起きないはず。テキパキと働く日々はリンの性格に合っている気がするので、なんだかんだ言いながらも油屋の従業員を続けるのではないでしょうか。
【魅力】リンの活躍をセリフと名シーンからおさらい
名セリフ2選
え?お前トロいから心配してたんだ。油断するなよ分かんないことはオレに聞け、なっ。
『千と千尋の神隠し』序盤で、リンの魅力がギュッと詰まっているのがこのセリフです。 リンは釜爺の頼みで嫌々、千尋を湯婆婆のもとへ連れていき、彼女の教育係を任されます。湯婆婆の前では不満そうにしつつも、後輩ができたことを喜ぶツンデレっぷりが堪りません。未知の暮らしが始まった千尋にとって、リンの存在は心強かったはずです。
カオナシ!千に何かしたら許さないからな!
終盤で千尋が釜爺から電車の切符をもらい、ハクの代わりに銭婆のところへ謝罪に向かう時、桶のような小船を漕いで彼女を見送りました。 リンは千尋の後を追いかけるカオナシを帰り際に目撃し、後輩を想って彼に釘を刺します。しかし千尋がどんなに心配でも、リンは一緒に行こうとはしませんでした。自己主張できるほど異世界で成長した千尋のことを信じ、帰りを待つと決めたからでしょうか。
見どころシーン2選
千とリンの初仕事!河の神を2人でもてなす

千尋に根気強く仕事を教えるだけでも感動ですが、河の神を救うシーンは特に印象的です。あまりの激臭に皆が遠巻きにするなか、2人でオクサレさまのために奮闘! リンは釜爺にありったけの薬湯を出すよう頼むなど、主に裏方としてサポートしました。千尋がモタつくのを見かねて、手際よく棘にロープを巻きつける姿も魅力的です。まさに頼りがいのある先輩で、的確な指示を出す姿に惚れ惚れしました。
くすねたあんまんを食べる

河の神を見送った後、リンがくすねてきたでかいあんまんを2人で食べるシーンも外せません。他の従業員も湯婆婆との契約に縛られているのだと、改めて気付かされました。 千尋といつになく静かに語り合い、「こんなところ(湯屋)やめてやる。いつか海の向こうの街に行くんだ」と、自分の夢について明かしたリン。正体や背景が分からないからこそ、BGMも相まって哀愁を感じるエモーショナルなシーンだと思います!
【性格】リンの厳しさの中の優しさ
リンは口調は荒っぽいものの、「わからない事があったらオレに聞け」と頼もしい先輩として振る舞います。同時に、決して千尋を甘やかさず、「大丈夫」と安易に慰めるような言葉もかけません。 境遇がどれだけ理不尽であろうと、生きていくためにやるべきことをやらなくてはならない、という厳しい現実を自分の姿を通して伝えます。リンの厳しくも優しい態度は、千尋が前を向いて動き出すきっかけにもなりました。
【考察】リンはなぜ千尋に優しくしたのか

他の従業員が千尋を冷遇していたのに対し、リンは親身になって千尋の面倒を見ていました。ハクいわく、リンは使い勝手のよい手下を探していたそう。当初はそういった気持ちもあったのでしょう。 一方で、千尋と過ごすうちに、リンは損得勘定抜きで千尋が気に入ったことが伝わってきます。湯屋で働くことが不本意だと感じているリンは、千尋に自分を重ねて、彼女の力になりたいと思うようになったのではないかと考えられます。
【対比】千尋とリンの違いが示す「異界のルール」

リンと千尋には、現状を不条理だと感じており、店の外(千尋の場合は元の世界、リンの場合は海の向こう)に行きたいという共通点があります。共通点があるからこそ、この異界に適応したリンと、外からきた存在である千尋という対比が際立つのです。 リンは「こんなとこ絶対に辞めてやる」と悪態をつきながらも、働き続けることで自身の存在の証明としています。この異界では、自身に与えられた役割を果たすことが絶対のルールであることを、異物である千尋の隣で示している存在ともいえるでしょう。 ラストでは橋の向こうへと渡っていく千尋と、留まるリンという構図に。視覚的にも両者の間には線引がされ、リンのどこにも行けないであろう残酷さが浮き彫りとなります。
『千と千尋の神隠し』リンの正体とその後に関する説を紹介
今回は『千と千尋の神隠し』のリンについて、正体に関する4つの説を考察してみました。また、セリフを通し、リンの魅力を分析し、物語に与えている影響を解説しました。 千尋にとって精神的支柱であり、姉のように厳しくも優しく見守ってくれたリン。彼女は人間か、白狐説が有力だと思われますが、どの説も確証が持てませんでした。観客が謎を自由に考察できるのも、「千と千尋」やジブリ映画が愛される理由かもしれません。





