『千と千尋の神隠し』豚になる理由と坊ねずみの関係

2017年7月6日更新

映画『千と千尋の神隠し』を彩る要素はいくつもありますが、とりわけ観客に衝撃を与えたのは「変身」かもしれません。目の前で両親が豚に変わっていくのを見つめるしかない千尋、あるいはワガママな性格を咎められ、ネズミに変えられた坊。一見繋がりのない二つのドラマは、あるひとつのテーマによって繋がっていました。

両親が豚になる『千と千尋の神隠し』

スタジオジブリのアニメ映画『千と千尋の神隠し』でとりわけショッキングなシーンといえば、千尋の両親がブタに変えられるシーンだと思います。迷い込んだ不思議な町で、たまたま見かけた料理に勝手に手をつけた両親に訪れた悲劇で、物語は幕を開けます。

陰陽五行説に見る「千と千尋」

理由については諸説ある両親の豚への変身。単に神々の世界の常識をわきまえていなかった両親の浅はかさが原因というものをはじめ、さまざまな説がありますが、ここでは陰陽五行説と結びつけたユニークな推測をご紹介します。

陰陽五行とは、古代中国における思想のひとつで、太陽と月、偶数と奇数のように、相反するものを陰と陽に分類する陰陽思想と、自然界が木・火・土・金・水の五大要素から成り立っているとする五行思想が合わさったもので、二つはもともと別の思想でしたが、長い歴史の中で、ひとつに結びつくことになりました。

「千と千尋」の物語は「森(木)」にはじまり、火・土・金・水を通ってやがて「森」へと戻ります。こうした循環は実は干支の十二支もいえること。両親のブタへの変身は、これで解けるというのです。

ブタからネズミへのバトンタッチ

『千と千尋の神隠し』

さて、劇中ではもう一人、ある理由で変身させられたキャラクターがいます。千尋の働く油屋の経営者、湯婆婆の息子である坊です。母に溺愛されて育ち、ワガママに育った坊は、伯母である銭婆によってネズミの姿へと変えられ、初めて親元を離れて冒険することになります。

先ほど述べたとおり、十二支は循環します。ネズミの「甲子」にはじまり、イノシシの「癸亥」を通って再び「甲子」に戻ります。つまり、一人立ちした坊ネズミが、ブタに変えられた千尋の両親に取って代わるという考え方もできるわけです。意外ですが、非常にしっくりくる考え方だといえないでしょうか?

親離れ・自立という名の「変身」

『千と千尋の神隠し』

千尋の両親と坊の変身は、ともに親の庇護から離れ、自分の力で生きていくという人生そのものともとることができます。変身するのが親か自分かの差はありますが。そういう意味では『千と千尋の神隠し』は「親離れ・自立」の物語であるともいえるのではないでしょうか。

「千と千尋」と「紅の豚」をつなぐもの

両親の豚への変身について。千尋のモデルになった「ちさと」という女の子がいました。宮崎監督と親交のあったちさとちゃん一家の父親は、なんとあの『紅の豚』の主人公、ポルコ・ロッソのモデルだったというのです。

当時力を入れていた『もののけ姫』の海外進出が思うように進まず、失意の底にいたという宮崎監督。自分を元気付けてくれたちさとちゃん一家への感謝をこめて、ちさとちゃんを主人公のモデルにしたのがこの映画の始まり。

そして、両親は先述のとおり、お父さんが紅の豚のモデルであることからブタに。これがブタになった理由ともいわれています。