『猫の恩返し』バロンの正体とは?『耳をすませば』の登場理由や恋人の存在を解説
1995年に公開されたジブリ映画『耳をすませば』と、2002年公開の『猫の恩返し』に登場するイケメン猫・バロン。 『耳をすませば』では主人公・雫が訪れた地球屋に置いてある猫の人形として登場しますが、『猫の恩返し』では主人公・ハルを助ける「猫の事務所」の所長として登場しました。 この記事では、ジブリのイケメン猫・バロンについて、『耳をすませば』と『猫の恩返し』を比較しながら解説していきます。
『耳をすませば』と『猫の恩返し』に出てきたバロン
『耳をすませば』では猫の置物として登場
『猫の恩返し』では全編にわたって登場するバロンですが、『耳をすませば』では地球屋に置かれている猫の人形として登場します。 地球屋の主人・西史郎は、戦前のドイツへ留学中にバロンと出会います。史郎はバロンの持ち主に譲ってほしいと頼み、一度は断られますが、その後譲ってもらうことになったのです。 角度によって光るバロンの目は、エメラルドの原石を含む鉱物でできています。光に当たると輝きを放つのは、職人が人形を作る際についた細かい傷によるもの。これは「エンゲルス・ツィマー(天使の部屋)」と呼ばれています。
『猫の恩返し』では紳士な猫男爵として登場
バロンは「猫の事務所」で所長を務める2足歩行の猫男爵です。身の丈は30cmほどで、白のタキシード姿にステッキという、英国紳士のような出で立ちをしています。 性格はムタ曰く「キザ」な紳士で、どんな事態にも冷静沈着に対処します。事務所を訪れた客に振舞う特製スペシャルブレンドの紅茶は毎回味が変わるそうで、紅茶を飲んで「おいしい」と言うハルに「君はついてる」と笑顔で応えています。 バロンは身体能力や剣術にも優れ、ハルを追いかけてきた兵士たちを、木のステッキ1本で倒しています。ハルのことを全力で守り、いかなる時も紳士的な態度を崩さないバロンの姿に、多くの女性ファンが魅了されました。
バロンが2作に登場する理由とは?
『猫の恩返し』は『耳をすませば』のスピンオフ作にあたり、月島雫が書いた物語という位置づけになっています。 そのため、『耳をすませば』で登場したバロンや、雫の前に現れた野良猫のムーンが、それぞれバロンとムタ(ルナルド・ムーン)として『猫の恩返し』に登場しているのです。 『耳をすませば』の紳士的な部分は変わらないものの、月島雫が憧れていた大人で神秘的なバロンに比べ、『猫の恩返し』では若々しくよりアクティブになっています。 他にも、『耳をすませば』で雫を演じた本名陽子が、ハルのクラスメイト・チカ役で出演していたり、バロンが連れ去られたハルを追いかけるシーンで1部『耳をすませば』の音楽が流れるなど、作品の随所に制作スタッフの遊び心が見られます。
バロンの本名や正体は?
『猫の恩返し』でバロンは「フンベルト・フォン・ジッキンゲン」と名乗っていました。 ファーストネームの「フンベルト」は中世から存在するドイツの男性の名前です。ヨーロッパでは昔から多くの国で使われています。イタリア語では「ウンベルト」になり、イタリア王国最後の国王・ウンベルト2世も同じ名前です。 ラストネームの「フォン・ジッキンゲン」はドイツで少なくとも13世紀にまで遡ることのできる由緒ある貴族の家柄。最も有名な人物は、宗教改革期にトリーア大司教に対して反乱を起こした「最後の騎士」フランツ・フォン・ジッキンゲンです。 また愛称である「バロン」は、実はフランス語で「男爵」の意味。愛称が男爵、本名が欧州の由緒ある名前だなんて、まさしくふさわしいですね。
バロンの恋人は白猫ルイーゼ!ハルとのその後は存在する?
『耳をすませば』で雫が書いたバロンの物語では、バロンは婚約者である白猫の人形と一緒に遠い異国の街で生まれたことになっています。この美しい白猫の恋人の名前はルイーゼです。 彼らの生まれた街には魔法が生きており、魔法使いの血を引く職人たちが工房をつらねています。バロンとルイーゼは見習いの貧しい人形作りによって、人を愛する思いを込めて作られました。 先述の通り、西史郎はバロンを譲ってもらう際に1度断られています。実は、恋人であるルイーゼが修理中で、2体を引き離すことはできないという理由があったからでした。 そこへ史郎の彼女が現れ、自分が修理の終わったルイーゼを買い取り、必ずバロンと引き合わせると約束したため、バロンを譲って貰えることになったのです。 しかし修理中に第二次世界大戦が始まり、ルイーゼとの再会はついに叶わず。なんとも切ない恋物語ですが、今もバロンはルイーゼを待ち続けています。
バロンとハルの関係は?その後どうなるのか
『猫の恩返し』のラストでは、ハルがバロンに「好きになっちゃったかも」と言うと、バロンも「ハルの素直なところが私も好きだよ」と答え、2人は別れました。 一見愛の告白のようにも受け取れますが、このセリフにおけるお互いの本気度はそこまで高くはないと考えられます。上述したように、バロンはまだ恋人を待ち続けていますし、ハルも「好きになっちゃったかも」と可能性をほのめかすに留まっているからです。 とはいえ、「猫の事務所の扉は必要な時に開く」とも言っているので、バロンとハルがその後ふたたび出会うことはあるかもしれませんね。
バロンの猫の種類は?
バロンの外見的特徴としては、逆3角形のシャープな小顔、大きな耳、アーモンド型のパッチリした目といったことがまずあげられます。 さらに細かい特徴としては、顔に模様があること、目は黄色がかった緑のような色をしている、といった点も見逃せません。体格は大猫ムタと比べると小柄です。 こういったバロンの特徴に該当する猫の品種はアビシニアンと推定されます。 エチオピア原産、体は筋肉質で短毛、毛の1本1本が根本から2~4色に分かれ、イエネコの中では最古の品種のひとつと言われています。
紳士的でかっこいい!バロンの名セリフ
「ダメだハル、自分を見失うんじゃない 君は君の時間を生きるんだ」
猫の城の大広間できれいなドレスに身を包み、バロンとダンスを踊っているうちに夢心地になったハル。彼女が、このまま猫になってもいいかも、と思った瞬間に、ハルを正気にかえらせたのが、バロンのこのセリフです。 猫の国は自分の時間が生きられない者たちが行く場所だから、自分を見失ってはならない、と言うことでしょう。
「もしハルが、本当に私たちを必要としたなら、きっとまた猫の事務所の扉は開くだろう。その時まで、しばしの別れ!」
猫の国から無事に帰ってきたハルは、バロンのことが好きになったかも、と告白します。 彼女の言葉を「ハルのその素直な心が私も好きだ」とかっこよくかわしたバロンは、上にあげたセリフで別れを告げます。そしてハルに答えるスキをあたえずバロンはカラスのトトに飛び乗って去っていきました。 バロンにふさわしい希望に満ちた明るい別れのセリフですね!
バロンの声優は『耳をすませば』と『猫の恩返し』で違う!
バロンの声優は、『耳をすませば』では露口茂が務めていましたが、『猫の恩返し』では袴田吉彦に変更されています。
『耳をすませば』:露口茂
露口茂は、1932年東京出身の元俳優です。1972年の刑事ドラマ『太陽にほえろ!』に山村精一警部補役で出演し、吹き替えでは『シャーロック・ホームズの冒険』で主人公のシャーロック・ホームズ役を担当しました。 バロン役を演じた時はなかなか納得のいく演技ができず、自分から頼んで何度もとり直したそうです。
『猫の恩返し』:袴田吉彦
袴田吉彦は、1973年静岡出身の俳優です。1992年、映画 『二十才の微熱』 の主役でデビュー。その後数多くのドラマや映画に出演し、2000年にはディズニー映画『ダイナソー』に声優として出演しました。
なぜ変更になった?
なぜバロンの声優を露口茂から袴田吉彦に変更したのでしょうか。監督の森田宏幸は、声優変更について「バロンを今までの渋いイメージではなく、若々しいイメージにしたかった」とコメントしています。 つまりキャラクターが持つ印象を変化させたいという意図があったようです。
『猫の恩返し』のバロンは『耳をすませば』の月島雫が広げた物語
『耳をすませば』で、地球屋に訪れた月島雫が一目惚れした猫の置物。このバロンを登場人物として書かれた物語が『猫の恩返し』だったのです。 『猫の恩返し』では雫なりの解釈が付け加えられ、『耳をすませば』とは違った雰囲気のバロンが私たちを魅了してくれます。1匹の猫が2作を繋げるキーパーソン(キーキャット?)となっていたのです。