『君たちはどう生きるか』鳥の種類とモデルは?3種類の鳥の役割も考察してみた

宮崎駿監督の集大成ともいえるジブリ映画『君たちはどう生きるか』。鳥のビジュアルのポスターのみで事前情報がほとんどないまま公開し、蓋を開けてみれば異世界×鳥映画?といった驚きの内容でした。 この記事では、『君たちはどう生きるか』に登場する鳥の種類を解説し、それぞれの役割や物語との関係性を考察していきます。また、鳥が苦手な人や集合体恐怖症の人にはトラウマ映画?という話題もあったため、苦手な人が本作をどう観たのかも紹介します。
『君たちはどう生きるか』に出てくる鳥の正体は?

『君たちはどう生きるか』は主人公の少年・眞人が現実世界から異世界へ迷い込み、亡き母と再会して心の成長を遂げる物語。その異世界へ誘う役割を果たしているのが、ポスターにも描かれていたアオサギ/サギ男です。 物語冒頭で眞人を異世界へ誘い込む時までは、現実世界のリアルな鳥の姿であるアオサギ。しかし異世界へ近づくにつれ、その姿はファンタジックな容貌へ変化していきます。異世界へ入るとアオサギは着ぐるみのようになり、中から小男が「サギ男」として現れ、観客の度肝を抜きました。 この物語でアオサギ/サギ男は、現実世界と異世界の橋渡し役を務めており、いわば生と死の境界を自由に行き来する狂言回しのようなもの。死と再生を体現する「火の鳥」のような役割を果たしています。
『君たちはどう生きるか』鳥の種類とモデルは?

本作にはアオサギの他にも鳥が登場しています。しかも集団で!種類はアオサギ、ペリカン、インコの3種類。 アオサギは先述の通り、リアルな鳥の姿から異世界でのファンタジックな着ぐるみサギ男に変貌します。アオサギの分類はペリカン目サギ科アオサギ属で、実はペリカンの仲間。生息地は河川や沼などの水辺で、全長1メートル近い巨体を持ち、日本でもよく見かける割と身近にいる鳥です。 ペリカンは眞人が異世界に入ってすぐ出会った鳥で、サギ男と違ってリアルな造形をしています。ペリカンは日本には生息しておらず、迷鳥として沖縄で観察された以外、野生で見ることはできません。 インコは異世界の住民であり、その姿はリアルとは真逆で、いかにもアニメのキャラクターといったところ。体の色が様々で、集団で生活しています。モデルとなっているセキセイインコは日本でもペットとしてよく飼育されている鳥ですね。
鳥ごとに分けたリアルとファンタジーの対比
本作に登場する3種類の鳥たちは、それぞれ描かれ方が随分違っています。現実世界と異世界を行き来するアオサギは現実世界ではリアルな鳥の姿、異世界ではアオサギの着ぐるみを着たような小男「サギ男」と、リアルとファンタジーどちらの姿にもなっていました。 一方ペリカンは現実世界から異世界に連れて来られた存在で、リアルな鳥の姿でしか登場していません。とはいえ異世界に居る存在だからか、人語を理解することができ、眞人と会話もしていました。 異世界に集団で住んでいるインコたちは、完全にアニメのキャラクター造形。しかしラストに眞人によって現実世界へ解き放たれると、リアルな鳥の姿になってあちこちへ飛び去って行きました。つまりインコたちはあくまでもファンタジー世界にしか住めない存在ということなのでしょう。
3種類の鳥、それぞれの役割を考察
アオサギ

ポスタービジュアルに描かれたアオサギ/サギ男は実に重要な役どころをいくつも担っています。まず眞人を異世界へ誘う役割は『不思議の国のアリス』の白うさぎのようであり、異世界に入ってからは『ロード・オブ・ザ・リング』のホビットのような旅の仲間となります。 眞人を少女時代の母=ヒミに引き合わせ、迷い込んだ義母・夏子を探す旅に同行するサギ男。現実世界と異世界の橋渡し役、物語の狂言回し、そして異世界のガイドでもあるわけです。さらになんと、最終的には眞人を助け、「友だち」にもなっています。 初めは眞人を異世界に誘惑する忌々しい存在として描かれていましたが、異世界では眞人にとってなくてはならない存在になっていったのです。
ペリカン

ペリカンが登場するのは、眞人が異世界に迷い込み、「下の世界」へ落されてすぐのこと。リアルな鳥の姿のまま、その場面にしか登場していません。下の世界ではペリカンたちは生命の元である「ワラワラ」を食べて生き延びていました。 異世界の創造主である眞人の大伯父によって、異世界に連れて来られたというペリカンたち。彼らは魚もいない海しかないこの世界に閉じ込められた存在のようで、仕方なくワラワラを食べています。その度にヒミに花火によって撃退され、むなしい戦いを繰り返していました。 この状況はまるで戦場に連れて来られ、戦うことを余儀なくされた兵士のよう。戦いに破れて疲れ果てた老ペリカンは恨み言を吐き、眞人の目の前で息を引き取りました。
インコ

異世界のインコたちは体の色によって役割分担があり、それぞれの集団でぎゅうぎゅうにひしめき合いながら暮らしています。インコたちは人肉を食すようで、眞人はライトグリーンの色のインコに捕まってしまい、目の前で包丁を研がれるという恐怖体験を味わいました。 とはいえインコたちは群れをなしているだけで、唯一リーダー的存在の「インコ大王」は大伯父と話し合いなど行うこともできますが、インコの群れは大王の言う通りにしか行動できません。まるで「右にならえ」の大衆のごとくで、おそらく創造した物語を貪る観客たちを模しているのではないでしょうか。 ただ貪るだけなのに、感想や批評を無責任に言いたい放題な大衆への強烈シニカルな描写が、このインコたちなのかもしれません。“料理されそうになっている”眞人が、まさに批評されようとしているキャラクターに見えてきませんか?
『君たちはどう生きるか』ポスターの鳥は?

宮崎駿監督が『風立ちぬ』で引退宣言をし、それを撤回した後、どうやら新作映画を制作中らしい……と聞き、われわれジブリ映画を観て育ってきた世代はずっと心待ちにしていました。ところが、いざその新作の公開が決まっても、出てくる情報は何やら鳥っぽい絵が描かれたポスタービジュアルのみ。 事前情報がほとんどない状態で公開日を迎え、その日に本作を観た人たちが口々に述べたのは「鳥がいっぱい出てくる」という謎の感想……。しかしこのポスターの鳥=アオサギこそが、主人公の友だちとなる「バディもの」にも近い超重要な存在だったと判明したのでした。 しかもこのビジュアルは、現実世界と異世界のちょうど間くらいに出現するアオサギ~サギ男の中間。今まさに完全なるサギ男に変貌しようとして、鋭い眼光でこちらを見ているかのよう。公開前は謎すぎたポスターは、これ以外にあり得ないとさえ思えるものだったのです。
怖い?鳥が苦手な人が観た『君たちはどう生きるか』の感想

『君たちはどう生きるか』にまつわる感想の中にもう1つ、「鳥が苦手な人」や「集合体恐怖症」にはトラウマ並みな映像が多々あるというものがありました。これまでも宮崎駿監督によるジブリ映画には『風の谷のナウシカ』の王蟲の群れや『崖の上のポニョ』の魚の群れといった、主に生き物の集合体映像が登場しています。 今回はそれが「鳥」だったということで、宮崎駿監督がずっと憧れてきた「飛行」に力を入れた結果、鳥の大群が画面いっぱい飛びまくる作品に。鳥やその集団が怖いと感じる人たちが本作を観た感想はやはり「怖い!」の一言で、特にアオサギの変貌ぶりや集団で鳥に襲われ食べられそうになる恐怖が耐え難いとのこと。 それはまるで、鳥に襲われ殺される恐怖を描いたヒッチコック作品『鳥』の恐怖さながら!ところが最後まで観ると、気持ち悪いと思っていたアオサギが眞人のバディになっている。それが本作を観て良かったと思える点でもあったようです。
『君たちはどう生きるか』に出てくる鳥たちのモデルや役割を考察
宮崎駿監督が憧れ続けた「飛行すること」への愛着が、鳥を大活躍させることになった『君たちはどう生きるか』。登場する鳥たちに様々な意味を持たせていることを深読みすれば、本作の面白さがより感じられるかもしれません。 金曜ロードショーでは、2025年5月2日に『君たちはどう生きるか』を初放送する予定。この機会にぜひ今一度、鳥に焦点を当てて本作を読み解いてみてはいかがでしょうか?